B型C型慢性肝炎・肝硬変治療の新しいガイドライン
2014年3月に新しいB型C型慢性肝炎・肝硬変に関する治療のガイドラインが発表されました。
変更点としては、C型慢性肝炎の治療において、2013年12月に発売されたシメプレビルが新たに加わり、ペグインターフェロン(
PEG-IFN)α-2aとリバビリン(RBV)そしてシメプレビル(SMV)の3剤併用療法が第1選択となりました。
また基本指針でC型慢性肝炎・肝硬変では肝機能値の異常値が長期化することや、年齢が高齢化するとともに肝細胞がんの発生頻度が上昇することから、ウイルス排除が可能な症例ではできる限り早期に治療を開始すべきと提唱しています。
また、B型慢性肝炎の治療ガイドラインでは、核酸アナログ製剤のうちでも、エンテカビル(ETV)とテノフォビルDF(TDF)が耐性株出現の可能性が低く、効果と副作用の面から、核酸アナログ製剤の第1選択薬となりました。
C型肝炎ウイルス
C型慢性肝炎・肝硬変の治療ガイドラインの基本指針
C型慢性肝炎・肝硬変は肝機能値の異常値が長期化したり、年齢が高齢化するとともに肝細胞がんの発生頻度が上昇することから、ウイルス排除が可能な症例はできる限り早期に治療を開始すべきであるとしています。
C型慢性肝炎に対する初回治療ガイドライン
Genotype 1 | Genotype 2 | |
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IFN(24週間) ペグIFNa2a(24-48週間) |
IFN(8-24週間) ペグIFNa2a:(24-48週間) |
C型慢性肝炎に対する再治療ガイドライン-1
(IFN単独またはPeg-IFN/RBV再燃例)
Genotype 1 | Genotype 2 | |
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Genotype1におけるIFN不適格/不耐容、前治療無効例に対して経口2剤(Daclatasvir(ダクルインザ)+Asunaprevir(スンベプラ)24週間)の治療が可能となった.
Genotype 1 | ||
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IFN不適格/不耐容例 |
| ダクラタスビル +アスナプレビル(24週間) |
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前治療無効例 | Null Responder | ダクラタスビル +アスナプレビル(24週間) ペグIFN+リバビリン +シメプレビル |
Partial Responder |
C型慢性肝炎に対する再治療ガイドライン-2 (IFN単独またはPeg-IFN/RBV無効例)
Genotype 1:前治療無効例では、安全性の面からSimeprevir3剤併用療法を第一選択とするが、Telaprevirの薬剤投与量を調整することによりTelaprevir3剤併用療法の治療効果も上昇する可能性があることから、安全性が高いと考えられる症例では、Telaprevir3剤併用療法を選択することも可能である。
認容性の観点から、うつ症状・うつ病などの副作用の出現が予測される症例、高齢者などの副作用出現リスクの高い症例に対しては、IFN-B+Ribsvirin併用療法を選択する。IFN不耐容症例では、IFN freeの次世代治療を待つことも選択肢のひとつとなる。
C型慢性肝炎に対する再治療ガイドライン-3
- 進展予防(発がん予防)の治療
- 1.プロテアーゼ阻害剤を含む3剤併用療法およびRibavirin併用療法の非適応例あるいはRibavirin併用療法で無反応例の中で発がんリスクの高い症例(50歳以上F2以上)では、IFNの副作用の素因を考慮し、発がん予防目的のIFNの長期投与が選択肢となる。なお、IFNa製剤は300万単位/日を3回/週を原則とし、在宅自己注射(Peg製剤を除く)も可能である。またPeg-IFNa2a製剤を使用する場合は90μg/日を1回/1-2週を使用する。
- 2.IFN非適応例およびIFNでALT値、AFP値の改善が得られない症例は肝庇護剤(SNMC,UDCA)、瀉血療法を単独あるいは組み合わせて治療する。
- 3.進展予防(発がん予防)を目指した治療のALT目標値はstage1(F1)では、持続的に基準値の1.5倍以下にcontrolする。stage2-3(F2-F3)では極力正常値ALT(<30IU/L)にcontrol する。
肝炎の治療および・発がん抑制を目指した血清ALT値正常C型肝炎例への抗ウイルス治療ガイドライン
ALT値/血小板数 | >15×104/μl | <15×104/μl |
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<30IU/L | 2-4か月毎に血清ALT値をフォロー。 ALT値異常を呈した時点で完治の可能性、発がんリスクを評価し、抗ウイルス療法を考慮。 |
線維化進展例がかなり存在するため、 慢性肝炎治療に準じて抗ウイルス療法を考慮。 経過観察の場合、2-4か月毎に血清ALT値を測定し、異常を示した時点で抗ウイルス療法を考慮。 |
31-40IU/L | 慢性肝炎治療に準じる。 | 慢性肝炎治療に準じる。 |
B型肝炎ウイルス
B型慢性肝炎治療ガイドラインの基本指針
血中HBVDNA量が持続的に一定以下となればALT値も正常値が持続し、肝病変の進展や発がんが抑制され、さらにHBs抗原が陰性化すればより一層発がん率が低下する。したがって治療目標は、核酸アナログとIFN(Peg-IFN)を使用し、HBe抗原陰性化とHBVDNA量を持続的に低用量に保つことを第一目標とし、最終的にはHBs抗原陰性化を目指す。
ただし、HBV持続感染者は通常、1)免疫寛容期、2)HBe抗原陽性慢性肝炎期、3)HBe抗体陽性慢性肝炎期,4)非活動性慢性肝炎期、5)回復期(HBs抗原陰性期)のいずれかの時期にあり、多くは自然経過で1)-5)の経過を取るため、治療に際してはHBV carrier のnatural history を十分理解した上で、個々の症例に適した治療開始時期や治療法を決めることが重要である。
治療薬にはIFN(Peg-IFN)と核酸アナログ(Lamivudine,Adefovir,Entecavir,TenofovirDF)がある。IFN(Peg-IFN)の抗ウイルス効果は弱いが耐性株の出現はなく免疫増強作用がある。核酸アナログ製剤は強い抗ウイルス効果を発揮するが耐性株出現の危険性を有する。ただし、Entecavir , Tenofovir DF では耐性ウイルス出現の可能性は極めて低い。
治療適応決定にはHBVDNA量、ALT値、肝病変(炎症、線維化)の程度が重要で、年齢、性、HBV遺伝子型(母子感染でGenotype Cかつ高ウイルス量例はIFNに抵抗性)なども参考にする。治療に際しては、特に35歳未満、Genotype A,B,ALT値 31 IU/L以上の症例では、HBs抗原陰性化を目指すことが望ましい。一方、35歳以上でGenotype C , ALT値 31 IU/L以上の例は病期の進展と肝発がん抑制を第一目標とするが、HBs抗原陰性化は極めて困難なことから、治療効率と患者負担を考慮して治療法を選択することが重要である。
B型肝炎の抗ウイルス療法の基本
- Peg-IFN
- 48週投与を基本とし、HBe抗原陽性、陰性にかかわらずHBVDNA量が4 Log copies/mL以上でALT値 31 IU/L以上を呈する症例をその適応とする。
- 核酸アナログ製剤
- Lamivudine(LAM)は耐性株出現頻度が高く、Adefovir(ADV)は単独投与では耐性株と腎障害の点から第一選択の薬剤とはならない。効果と副作用の面から第一選択はEntecavir(ETV)またはTenofovirDF(TDF)である。
- 耐性株への対応
- LAM体制あるいはLAM+ADV投与例はTDF(TDFで不十分ならADV,ETVを加える)に切り替える。
ETV耐性例はまれであるが、耐性出現時はTDFあるいはETV+TDFに切り替える。TDFは投与開始5年までは耐性株出現の報告はないが、もし耐性株が出現すればETVを加える。
35歳未満B型慢性肝炎の治療ガイドライン
治療開始基準 | 治療戦略 | ||
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HBVDNA量 | ALT値 | ||
HBe抗原陽性 | >4 Log copies/mL | >31 IU/L |
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HBe抗原陰性 | >4 Log copies/mL | >31 IU/L |
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陽性/陰性・肝硬変 | &ggt;2.1 Log copies/mL | - |
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35歳以上B型慢性肝炎の治療ガイドライン
治療開始基準 | 治療戦略 | ||
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HBVDNA量 | ALT値 | ||
HBe抗原陽性 | >4 Log copies/mL | >31 IU/L |
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HBe抗原陰性 | >4 Log copies/mL | >31 IU/L |
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陽性/陰性・肝硬変 | &ggt;2.1 Log copies/mL | - |
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Lamivudine単独投与中B型慢性肝炎患者に対する核酸アナログ製剤治療ガイドライン
Lamivudine治療 | 治療戦略 | |
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HBVDNA量 | VBT【2】 | < 2.1Log copies/mL持続【1】 | - | 原則Entecavir 0.5 mg/日あるいはTenofovir DF 300mg/日に切り替え。 |
>2.1 Log copies/mL | なし | Entecavir 0.5mg/日あるいはTenofovir DF 300mg/日に切り替える。 |
あり | Entecavir + Tenofovir DFまたはLamivudine + Tenofovir併用療法【3】 |
補足項目
【1】:持続期間は6か月以上を目安とする。
【2】:VBT:viral breakthrough(HBVDNA量が最低値より1 Log copies/mL以上の上昇)
【3】:Tenofovir DF 併用療法を長期に行うと、腎機能の悪化や病的骨折を起こす可能性があることから、注意を要する。
Entecavir単独投与中B型慢性肝炎患者に対する核酸アナログ製剤治療ガイドライン
Entecavir治療 | 治療戦略 | |
---|---|---|
HBVDNA量 | VBT【2】 | < 2.1Log copies/mL持続【1】 | - | 原則Entecavir の継続投与 |
>2.1 Log copies/mL | なし | 3年以上経過しても>2.1 Log copies/mLの症例はTenofovir DFに切り替えも可 |
あり | Entecavir耐性が存在する場合はLamivudine + Tenofovir DF 併用療法あるいはEntecavir + Tenofovir DFを併用投与する。 |
補足項目
【1】:持続期間は6か月以上を目安とする。
【2】:VBT:viral breakthrough(HBVDNA量が最低値より1 Log copies/mL以上の上昇)